12
ギィン、ギィンと刀と刀がぶつかり合う。
「はぁっ…！」
小十郎の切り上げた刀が風魔の対刀を弾き、瞬時に身を低くした風魔は小十郎の足を狩りにかかった。
それを小十郎は素早く一歩下がることで避けると刀を振り下ろす。
息も吐かせぬ攻防を、遊士は乱れた息を整えながら見ていた。
それにしても…、金さえ積めば何処にでも付くって風魔の噂は本当だったのか…。
視線の先で小十郎の刀を身に受けた風魔が腕から血を流し、膝を付く。
「………」
北条戦で遊士がつけた傷が癒えていなかったのか、風魔は小十郎に斬られた箇所とはまた別の部位から血を滲ませていた。
膝を付き、肩で息をする風魔は動けそうにない。
「これで終わりだ」
それを見てとった小十郎がそう告げ、刀を振り下ろす。
しかしその直前、瞬きの間に風魔は小十郎の前から姿を消した。
「なっ―！」
何処に、と瞬時に気配を探った小十郎は自分の背後に感じた気配にばっと振り返る。
その先には―、
「―っ、忍の癖して殺気が駄々もれだぜぇ風魔っ!!」
遊士に襲いかかる風魔と、そんな風魔の腹部に鋭い蹴りを埋めた遊士が。
「………」
ドウッ、と声も無くその場に風魔が崩れ落ちる。
「ha、…金で動いたワケじゃねぇってか」
伝説の忍が最後の最期に殺気という名の情を見せた。
その殺意は誰が為の物か。
遊士は倒れ伏した風魔を見下ろし、瞳を細めた。
「北条のじいさんを倒した伊達が許せなかったか…」
刀を鞘に納め、遊士の側に戻ってきた小十郎は遊士の言葉を耳にして同じ様に風魔を見た。
「ならば先の戦で風魔が深傷を負ってまで姿を消したのは…」
「北条のじいさんの危機を悟ってコイツなりに護りに行ったのかもな。…まぁ、本当の事は風魔本人にしか分からねぇがな」
遊士は風魔から視線を上げると気持ちを切り換えるように、先に見える古寺を見据えた。
その瞳に写るのは何か。
小十郎はどこからともなく取り出した布を裂くと遊士に声をかけた。
「遊士様。応急処置を致しますので右肩をお見せ下さい」
「ん？あ〜、大丈夫だコレぐらい。そんな事より先を…」
「成りませぬ。傷が残りでもしたら」
遊士は腕を掴まれ諫められる。
渋々、陣羽織を脱ぎ、斬られた右肩を破れた服の隙間から見せた。
「これぐらいの傷、本当に大丈夫だってのに」
「…小さな傷でも甘く見てはいけませぬ」
服の隙間から見えた傷口の他に、真一文字に走る古い傷痕を見つけて小十郎は眉を寄せた。
それについては何も言わず、サッと応急処置を施すと布をキツく巻いた。
処置を終えた遊士は陣羽織を羽織直し、お礼を言う。
「Thanks」
「いえ、先を急ぎましょう」
そして、どれ程の間放置されていたのかボロボロに崩れ落ちた門を通り、雑草が生える道を進んだ。
目の前に立つ古寺も門同様、屋根は無く壁は崩れ瓦礫と化し、梁が剥き出しになっていた。もはや寺の様相を成していない。
「あれは…」
その柱に、薄汚れてはいるが見慣れた格好の人間が縄で縛り付けられていた。
斥候に出した政宗の部下達だ。
「ほぅ、懲りずに戻って来たか少年と竜の右目。おや、独眼竜の姿が見当たらないようだが？」
クツクツと、崩れ落ちた古寺を背後に松永は待ち受けていた。
「てめぇでやっといて何を…」
遊士は低い声を出し、松永を睨み付けた。
しかし、松永は動揺一つ見せずに淡々と告げる。
「相も変わらず卿らの目的は彼らかね？」
スゥッと腰から剣を抜き、松永はクッと嘲るような笑みを浮かべた。
「あぁ、返してもらうぜぇ」
遊士は懐に右手を差し込み、松永の出方を伺う。隣では小十郎が同じ様に刀の束に左手をかけ、警戒を露にしていた。
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